【国産ブーツブランド特集】世界のブーツファンを魅了する国産ブランド6選
日本の職人技が生む、世界水準のブーツ

ブーツの歴史は、労働と戦いの歴史だ。19世紀のアメリカ西部開拓時代、カウボーイたちが馬上で足を守るために履いたウエスタンブーツ。20世紀初頭、工場や鉱山で働く労働者たちの安全を守ったワークブーツ。二度の世界大戦で兵士たちが戦場を駆け抜けたミリタリーブーツ。ブーツは常に、過酷な環境で人々を支えてきた。
アメリカで花開いたブーツ文化は、レッドウィング、ホワイツ、ウエスコといった名門ブランドを生み出した。
そして現代の日本。職人の多くは、アメリカ、ヨーロッパのブーツに魅了され、その製法を学び、そして気づいた。日本の職人技術は、本場を超えられる、と。
2000年代から2010年代にかけて、日本各地でブーツブランドが誕生する。彼らが目指したのは、ただのコピーではない。アメリカのヴィンテージブーツが持つ魂を理解し、日本人の足型に合わせ、日本の繊細な職人技で仕上げるこれこそが、「メイドインジャパン」のブーツだ。ハンドソーンウェルテッド、グッドイヤーウェルト、伝統的な製法を守りながら、素材選びから縫製まで、すべての工程に妥協しない。一足の納期は数ヶ月、価格は10万円を超える。それでも世界中のブーツファンが、日本のブーツを求める。
なぜか。それは、日本のブーツが「本物」だからだ。アメリカの伝統を受け継ぎながら、日本独自の美学と品質で昇華させた、これが、国産ブーツの真髄である。
今回紹介するのは、日本が誇る6つのブーツブランドだ。それぞれが異なる場所で、しかし同じ情熱で、最高のブーツを作り続けている。
ブランド紹介
今回紹介するのはすべて国産で製造されている、「ジャパンメイドブーツブランド」。CLINCH、BILTBUCK、ZERROWS、Aristocrat&Co.、Rolling dub trio、BROTHER BRIDGE。名前を聞いただけで、ブーツ好きの血が騒ぐラインナップ。どのブランドも、創業者が自らの手で革を裁ち、ミシンを踏み、一足一足を仕上げている。大量生産はしない、できない。一人の職人が一日に作れるブーツは、せいぜい数足。
彼らが作るのは、単なる「靴」ではない。ヴィンテージのワークブーツやミリタリーブーツの研究から生まれた、歴史への敬意と理解が詰まった作品。リベット一つ、ステッチ一本、革の選定、木型の設計、すべてに「なぜそうするのか」という理由がある。
そして最も重要なのは、日本人の足に合うということだ。欧米の木型では、日本人の足には合わないことが多い。幅が狭すぎたり、甲が低すぎたり。国産ブランドは、日本人の足型を徹底的に研究し、最適な木型を開発している。だから、履いた瞬間から違いが分かる。
価格は決して安くない。しかし、一生モノのブーツに、適正な価格を払うことの意味を、玄人は知っている。修理しながら10年、20年と履き続ける、それがブーツの本当の楽しみ方だ。
さあ、日本が世界に誇るブーツブランドの世界へ、ようこそ。
ブランド①:Brass Shoe Co.「CLINCH」
シューリペアから生まれた完璧主義
ブランド詳細
拠点: 東京都世田谷区
創業: 2007年(Brass Shoe Co.)、2011年(CLINCHブランド始動)
代表: 松浦稔
特徴: 世田谷にあるシューリペアショップ「Brass Shoe Co.」が展開するオリジナルブランドがCLINCHだ。代表の松浦稔氏は、ブーツのリペアとカスタムで世界的に知られる職人であり、無数のヴィンテージブーツを分解・研究してきた経験を持つ。その知見が、CLINCHのブーツに凝縮されている。
ブランド名CLINCHは、「突き出た先を折り曲げて留める」「締めつける」「固定する」という意味の米語から採られた。実際、丁寧に靴を作るには、様々な道具を用いたこれらの行為が不可欠だ。木型の設計からデザイン、アッパーの縫製、底付けそして仕上げに到る全行程を、Brassの店舗と近くのアトリエだけで行っている。まさに、名は体を表すネーミングだ。
CLINCHの最大の特徴は、ハンドソーンウェルテッド製法を採用している点だ。踏まず部分が深くえぐれた流麗なフォルムは、この製法でしか実現できない。20世紀初頭までの紳士靴をイメージして作られたCLINCHのブーツは、「ドレス」や「ワーク」の境界がまだ明確でなかった時代の美学を体現している。
木型は甲・土踏まず・カカトを絞り込んでおり、抑揚あるフォルムが高いフィッティングを生み出す。誰にでも合うような、足入れ・脱ぎ履きがしやすいブーツではないかもしれない。しかし履いていただける方には、身の足に馴染み、自分の物になる感覚を感じていただけるはず。これが、CLINCHの哲学だ。
ジョッパーブーツ、エンジニアブーツ、そして新作のミルンブーツやコンラッドブーツ、どれもクラシカルでドレスの雰囲気を感じる洗練されたフォルムに、息を飲む美しさがある。

CLINCHは、日本を超えたブーツの最高峰の一つ。松浦氏のリペア経験から生まれた思考は、他の追随を許さない。ハンドソーンウェルテッドの美しいシルエットは、まさに芸術品。履き込むほどに自分の足に馴染んでいく過程は、ブーツとの対話そのもの。価格は高いが、それだけの価値がある。一生に一度は手に入れたいブランド。そして子に継承したい一品である。
ブランド②:BILTBUCK (ビルトバック)
エンジニアブーツへの飽くなき追求
ブランド詳細
拠点: 東京都渋谷区(ATTRACTIONS)
創業: 2013年
代表: 西崎智成(ATTRACTIONS代表)
特徴: ATTRACTIONS代表の西崎智成氏が手掛けるBILTBUCKは、2013年デビューながら、業界内外で高い評価を受けるエンジニアブーツの名門だ。ブランドコンセプトは明確、モーターサイクルブーツ創生期をコンセプトに、ハイグレードマテリアルで作り上げた「THE PIONEER(ザ・パイオニア)」。
BILTBUCKを代表するのは、Lot.444とLot.603というエンジニアブーツだ。インナーカウンターをはじめとしたドレッシーでクラシカルなフォルム、フィッティングの良い立体的なアーチ&ヒールが特徴。改良を重ねて強度とフィット感を高めたこのモデルは、穿き込むほどに革に皺が刻まれ足に馴染み、自分だけの格別なシルエットとフィット感が生まれるように設計されている。
素材へのこだわりも尋常ではない。イタリアのグイディ社製ホースバット、最高級オークバークベンズのミッドソール、BILTBUCKオリジナルラバーソール、すべてが最高グレードだ。クラシカルなやや太めのシャフトは足入れがスムーズなだけでなく、ブーツが自分の形になる頃にはカカトのホールド感も増して快適なフィッティングが得られる。
「堅牢さ」「履き心地」「美しさ」を持ち合わせた素晴らしいブーツ、BILTBUCKは、理想のエンジニアブーツを追い続ける西崎氏の情熱が、自然と銘品を生み出している証だ。

エンジニアブーツにこだわるなら、BILTBUCKは外せない。西崎氏の「理想のエンジニア」への執念が、ブーツに宿っている。グイディのホースバットの質感、オークバークミッドソールの存在感、すべてが計算されている。2013年デビューとは思えない完成度。エンジニア愛が止まらない人のためのブランド。
ブランド③:ZERROWS (ゼローズ)
オーダーメイドの極致
ブランド詳細
拠点: 茨城の工房、東京都台東区浅草(ZERROWS TOKYO)
創業: 2011年
特徴: 2011年、茨城の小さなファクトリーで誕生した日本品質のフルオーダーメイドブーツブランドがZERROWSだ。現在ではなかなか入手できない旧式の機械が工房に並び、極少数の職人による熟練した技術を駆使し、一つの工房で一貫して生産されている。
ZERROWSの信念は明確「より良く、誰にも真似できないブーツ作り、そして可能な限りユーザーの希望に応える」。フルオーダーメイドという形式を取ることで、顧客一人一人の足に合わせた最適なブーツを提供している。
使用する革は、HORWEEN社のChromexcel、Single Horse Front、Shell Cordovan、WICKETT&CRAIG社のOild Latigo、Dippped Work Harnessなど、世界最高峰のタンナーから仕入れた素材ばかり。カスタムベースとなるモデルを選び、革の種類とカラーを決め、顧客の足を採寸してから製作に入る。この丁寧なプロセスが、ZERROWSのブーツに唯一無二の価値を与えている。
エンジニアブーツ、レースアップブーツ、そしてサンダルまで、ZERROWSが作るのは、すべてオーダーメイドの一点物だ。

フルオーダーメイドの醍醐味を味わいたいなら、ZERROWS。茨城の工房で、職人が一足一足を手作りする——この贅沢さは、既製品では絶対に味わえない。ホーウィンやウィケット&クレイグの最高級レザーを、自分の足に合わせて仕立てる喜び。納期は数ヶ月かかるが、その待つ時間もまた楽しい。自分だけのブーツを求める人へ。
ブランド④:Aristocrat&Co. (アリストクラット)
若き職人が貫く一型主義
ブランド詳細
拠点: 神奈川県横浜市白楽
創業: 2023年
代表: 小島親(こじま しん)
特徴: 2023年に始動した完全ハンドメイドのブーツブランドがAristocrat&Co.だ。代表の小島親氏は、Brass Shoe Co.で経験を積み独立した靴職人。ブランド名Aristocratは、"最高の物"を意味する。
Aristocrat&Co.の最大の特徴は、「一型のみで、対面販売だけ」という時代と逆行したスタイルだ。定番モデル「LOWELL(ローウェル)」を中心に、Astor(アスター)、Duke(デューク)といったモデルを展開。すべてが貴族の名前から採られており、高貴な印象を纏う。
1920年代から40年代のヴィンテージワークブーツをデザインソースにし、Aristocrat&Coなりの解釈で再構築した究極のドレスワークブーツ。これが、小島氏の目指すプロダクトだ。「人の手によって作られたものにより価値があって、長く愛用することで美しく経年変化したものが、僕の目指すプロダクト」という言葉に、彼の哲学が表れている。

Aristocratは、職人の理想主義が結晶化したブランド。対面販売のみ、一型主義というストイックな姿勢に、逆に惹かれる。小島氏のBrass出身という経歴が、品質への信頼を裏付ける。2023年スタートの新しいブランドだが、すでにコアなファンが付いている。これからの成長が楽しみな、注目株。
ブランド⑤:Rolling dub trio (ローリングダブトリオ)
一枚革が生む革の足袋
ブランド詳細
拠点: 東京都台東区浅草
創業: 2007年
代表: 徳永勝也
特徴: 東京・浅草にて、徳永勝也氏が2007年に立ち上げたオリジナルブーツブランドがRolling dub trioだ。屈強で無骨なワークブーツを製靴することで知られ、街用のワークブーツよりも重く、頑丈で、壊れにくい特徴を持つ。メイドインジャパンにこだわり、日本人の足型を考えたモノづくりに定評がある。
Rolling dub trioを代表するのは、「CASPER(キャスパー)」というサイドジップブーツだ。このモデルの最大の特徴は、一枚革で作られていること。例えるなら、革の足袋。革というよりは"皮"膚に近い、そんな履き心地だ。
つなぎ目による凹凸が無いから足当たりが抜群に良い。変な靴擦れも無い。さらに違いが現れるのが履き込んだ時、繋ぎ目があれば履きシワもそこで途切れてしまうが、これは途切れていないから、ダイナミックなシワが生まれる。これがたまらなくカッコいい。
サイドジップはブーツラバー達の間で邪道とされてきた。しかし、圧倒的なこだわりでそれをアリと認めさせたのがこのCASPERだ。細いシャフトと滑らかなシルエットは最高に艶っぽく、ジッパーとプルストラップで脱ぎ履きに我慢も必要ない。
生産待ちが相次ぐ人気モデルであり、日本のみならず世界的にも評価されている。

Rolling dub trioのCASPERは、一度履いたら忘れられない。一枚革という発想が天才的。足を包み込むような履き心地は、まさに革の足袋。サイドジップの機能性と、無骨なワークブーツの魂が共存している。徳永氏の製靴技術の高さが、世界で評価される理由がよく分かる。浅草が誇る名品。
ブランド⑥:BROTHER BRIDGE (ブラザーブリッジ)
日本人のための最強靴
ブランド詳細
拠点: 東京都台東区浅草
創業: 2000年代
特徴: 靴の街、浅草に拠点を持つBROTHER BRIDGEは、伝統的な作り方を大切にしながらも、現代的な感覚を取り入れる日本の靴ブランドだ。靴の歴史を紐解き、スタイルの裏側にあるストーリーを大事にしている。
BROTHER BRIDGEの最大の特徴は、日本人の自然な履き心地を追求した理想的な木型だ。一般的な木型に比べ、センターラインを内側に設計、肉付けし、外側は削る。これにより自然な履き心地を実現するとともに、足への負担も軽減。丸みを帯びた踵の形状は、ホールド感を高め、歩行をサポートする。
代表モデルは、「HENRY(ヘンリー)」と「ESCAPE(エスケープ)」。HENRYは1920年代から40年代のトレーニングシューズをデザインソースにしたアスレチックブーツ。ESCAPEは、M43(TYPE3)と呼ばれるサービスシューズからインスピレーションを受けており、映画『大脱走』のスティーブ・マックイーンが劇中で着用していたことにちなんで名付けられた。
機能、デザイン、素材、そのすべてにおいて徹底したこだわりを追求したBROTHER BRIDGEは、匠の手により1足ずつ丁寧に仕上げられている。輸入靴に負けない高品質と佇まい、加えて革靴とは思えない絶妙なフィッティング、日本人のための最強靴がここに完成した。

BROTHER BRIDGEは、日本人の足に最も合うブランドの一つ。木型への徹底的なこだわりが、履き心地に直結している。HENRYのアスレチックな雰囲気と、ESCAPEのミリタリーテイスト、どちらもアメカジスタイルに完璧にハマる。浅草の職人技が詰まった、信頼できるブランド。価格も比較的手が届きやすい。
「一生モノ」国産ブーツの真髄
国産ブーツを選ぶ際は、まず自分の足を正確に測ることから始めよう。多くのブランドが対面での採寸やフィッティングを重視しているのは、それが最高の履き心地を実現する唯一の方法だからだ。
サイズ選びで重要なのは、「新品時は少しキツイくらいがちょうど良い」ということ。革は履き込むことで伸びて馴染む。最初から緩いと、後々ブカブカになってしまう。特にエンジニアブーツのような紐がないタイプは、サイズ選びが命だ。
一般的にはメンテナンスの重要性を訴える人が多くいる。
しかし、良い製法、良い革で作られたブーツにメンテナンスはほぼ必要ないと言ってもよい。ブーツは雑に扱ってなんぼだ。
国産ブーツの多くは、オールソール交換やアッパーの修理に対応している。10年、20年と履き続けることを前提に作られているからだ。壊れたら直してもらえばブーツは一生モノになる。
そして、恐れずに履き込むことだ。傷も汚れも、すべてがブーツの個性になる。ピカピカの新品よりも、履き込んで味が出たブーツの方が、遥かにカッコいい。これが、ブーツの真髄だ。
まとめ:すべてのブーツに宿るロマン
日本の国産ブーツブランドは、アメリカのヴィンテージブーツへの深い愛情と理解から生まれた。彼らはただのコピー屋ではない。ヴィンテージを研究し、その魂を理解し、日本の職人技で昇華させる。これこそが、メイドインジャパンのブーツだ。
かつて、ブーツはアメリカの専売特許だった。
しかし今、世界中のブーツファンが日本のブーツを求める。なぜか。それは、日本の職人たちが、アメリカの伝統を受け継ぎながら、それを超える品質を実現したからだ。
日本人として国産ブーツに誇りを持ち、人生の相棒にしてほしい。