【名品】時代を超える「マクレガー スコティッシュドリズラー」── 霧雨が教えてくれた、アメカジの真髄

機能は美しさを生む。シンプルさこそ、永遠の証
この名品が生まれた背景
1945年、ニューヨーク。戦争が終わり、アメリカが平和を取り戻そうとしていた時代。マクレガーは一枚のジャケットを世に送り出す。その名は「スコティッシュドリズラー」。ドリズル(drizzle)霧雨を意味するこの言葉が、すべてを物語っていた。ゴルフ場に降る小雨や風を凌ぎながら、快適にプレーできるアウターを。そんな明確な目的のもと、レーヨンとコットンを掛け合わせた撥水性のある生地で仕立てられた。創業者デビッド・D・ドニガーが1921年に立ち上げたマクレガーは、スコットランドから輸入したゴルフウェアを「コーディネイトスポーツウェア」として提案してきたブランド。その哲学が結実したのが、このドリズラージャケットだった。機能から生まれたデザインは、やがて時代を超える普遍性を獲得する。
はじめに:なぜ「名品」なのか
80年という時間が流れても、ドリズラージャケットは色褪せない。理由はシンプルだ。必要なものだけを残し、不要なものを削ぎ落とした結果、普遍的なフォルムが生まれた。ショート丈、ステンカラー、フロントジップ。逆玉縁ポケット、リブの袖口と裾。これらすべてに意味がある。装飾ではなく、機能から生まれたディテールだからこそ、時代が変わっても説得力を失わない。日本では「スイングトップ」という名で親しまれ、VANジャケットの石津謙介がその名を広めた。アイビールックの一翼を担い、みゆき族が銀座を闊歩した1960年代。ストリートファッションが再評価された1990年代。そして今。ドリズラージャケットは何度も蘇る。本稿で紹介するSEPTIS別注モデルは、オリジナルの精神を受け継ぎながら、現代的なリラックスフィットへと昇華させた一着だ。
名品の魅力を紐解く
魅力①:霧雨から生まれた、機能美の結晶
襟を見てほしい。小ぶりなステンカラーは、首の付け根に沿うような低いライン。これが、ドリズラージャケット特有の表情を作り出す。そしてチンストラップ。襟を立ててボタンで留めれば、スタンドカラーに早変わり。風が吹いても、霧雨が降っても、首元を守ってくれる。使わない時は襟裏にしまえるこの細やかな配慮が、1945年の設計思想を物語る。ポケットは逆玉縁仕様。開口部が下向きだから、雨が入りにくい。さらにダブルステッチで大きく囲むことで、存在感のあるデザインアクセントにもなっている。丸みを帯びたステッチラインは、カジュアルな温もりを添える。袖と裾のリブは、風の侵入を防ぐバリア。体にフィットすることで、防寒性も高まる。すべてが理に適っている。機能がデザインを生み、デザインが美しさを纏う。これこそドリズラージャケットの本質だ。
魅力②:SEPTIS別注が示す、現代的解釈
オリジナルのドリズラージャケットは、身体に沿ったシルエットだった。それを、SEPTISは「リラックスフィット」へと再構築する。主に身幅を緩めに設定することで、春先にはTシャツの上からシャツ感覚で、秋冬には厚手のセーターやスウェットの上から羽織れる設定に。一年を通してワードローブの主役を張れる汎用性を手に入れた。素材はT/C WEATHER。ポリエステル65%、綿35%の混紡で、高密度に織り込まれている。オリジナルのレーヨン×コットンから素材は変わったが、撥水性と快適さを両立させる思想は変わらない。程よくリラックスしたムードが、2025年の空気感にぴったり合う。これぞ現代風アメカジ。良い塩梅に仕上がっている、とはこのことだ。
魅力③:ショート丈が生む、黄金比率
着丈の短さ。これがドリズラージャケット最大の個性かもしれない。腰骨あたりで終わるショート丈は、スタイルにメリハリを与える。ワイドパンツと合わせれば、Aラインシルエットが完成する。細身のデニムと合わせれば、すっきりとしたIラインに。どちらも美しい。ゴルフのスイングを妨げないための短い丈は、現代のスタイリングにおいても絶妙なバランス感覚を発揮する。裾のリブがギャザーを作り、ブルゾン特有のボリューム感を演出。対照的に、肩回りはラグランスリーブで動きやすさを確保している。スポーツウェア由来の機能性が、日常着としての快適さに直結している。この絶妙な比率が、80年間変わらぬ支持を集める理由の一つだ。
魅力④:ディテールに宿る、職人の思想
見落としがちな部分にこそ、ドリズラージャケットの真価がある。フロントジップの引手。袖口のボタン。ポケット口の補強ステッチ。どれも「使う人のために」という思想が貫かれている。ジップは開閉がスムーズで、片手でも扱いやすい。袖口のボタンは、風の強い日に袖をまくり上げるための工夫。ステッチは、生地の強度を高めながら、視覚的なリズムも生み出す。そしてSEPTIS別注モデルは、これらのディテールを忠実に再現しながら、現代の縫製技術で精度を高めている。一つひとつは小さな配慮だが、積み重なることで「使い心地の良さ」という大きな価値になる。触れば分かる。着れば分かる。ドリズラージャケットの完成度を。
経年変化という楽しみ
T/C素材は、純粋なコットンほど劇的な変化は見せないかもしれない。だが、だからこそ長く美しく着られる。高密度に織られた生地は、着込むほどに体に馴染み、独特の風合いが生まれる。肘や肩に現れるアタリ。袖口や裾のクタッとした表情。洗いを重ねるごとに、色が少しずつ落ち着いていく。それは劣化ではなく、熟成だ。5年後、10年後のドリズラージャケットは、あなただけの一着になっている。ヴィンテージ市場では、1950年代のオリジナルモデルが高値で取引されている。状態の良い個体は、100万円の値がつくこともある。それほどまでに、時間を経たドリズラージャケットには魅力がある。育てる楽しみを知っている人にこそ、この一着は応えてくれる。

ドリズラージャケットと出会ったのは、古着屋でした。1960年代のマクレガー、赤いレーヨン混紡の一着。手に取った瞬間、「これだ」と思いました。80年前のゴルフウェアが、なぜこんなにも今の気分に寄り添うのか。答えはシンプルです。本物は、時代を選ばない。SEPTIS別注モデルは、その本物の精神を受け継ぎながら、2025年を生きる私たちのために作られています。一枚羽織れば分かります。この心地よさ、この佇まい。これこそアメカジの真髄です。
名品が教えてくれること
ドリズラージャケットは、私たちに大切なことを教えてくれる。それは「機能は美しさを生む」ということ。霧雨を凌ぐため、風を防ぐため、動きやすくするため、そうした明確な目的から生まれたディテールが、結果として時代を超えるデザインになった。装飾ではなく、本質。流行ではなく、普遍。これがアメカジの本質であり、マクレガーが80年間変わらず伝えてきたメッセージだ。そして今、SEPTIS別注という形で、その精神は現代に受け継がれている。リラックスフィットへの再解釈は、単なる流行追随ではない。時代に合わせて形を変えながらも、核にある思想は決して揺るがない。これこそ名品の条件だ。さあ、あなたもドリズラージャケットを手に取ってみよう。80年の歴史が、あなたの肩に宿る瞬間を体験してみよう。そして10年後、20年後も、この一着を着続けている自分を想像してみよう。それができるアイテムこそ、真の名品と呼べるのだから。