【名品】「LEE THE ARCHIVES 101-J 1945 MODEL」── 過渡期にのみ存在した、異形のジャケット

過渡期にしか宿らない、異形の美しさ。
この名品が生まれた背景
1945年8月15日。第二次世界大戦が終結した。長く続いた戦時体制から、アメリカは平時へと移行する。だが、すぐに元通りとはいかない。軍需品中心の生産体制を、民生品へと転換するには時間を要した。物資は不足し、工場は混乱していた。そんな中、H.D. Lee Companyは動く。カウボーイ向けのワークウェアとして展開してきた「COWBOY」シリーズを、より現代的な「RIDERS」へと刷新する決断を下した。1946年、ライダースシリーズが正式にスタートする。だが、その直前。1945年という、わずか一年間だけ。奇妙なジャケットが存在した。フロントヨーク、斜めに配置された胸ポケット、2本ラインのダーツ、シルエットはライダース。だが、ボタンはすべて「Lee COWBOY」の刻印入りドーナツボタン。カウボーイ時代の在庫部材を使い、ライダースの形で仕立てた。過渡期にのみ存在した、異形のジャケット。それが、101-J 1945 MODELだ。
はじめに:なぜ「名品」なのか
101-Jは、1948年に正式デビューして以来、70年以上もデザインがほぼ変わっていない。完成されたウエスタンディテール。Leeの左綾デニムが生む美しい縦落ち。カウボーイのために設計された機能性。これらが融合し、デニムジャケットの一つの完成形となった。だが、1945年モデルは違う。カウボーイとライダース。新旧のディテールが混在する。通常であれば、こうした中途半端な仕様は市場に出ない。だが、戦後の混乱期。物資不足という制約が、この特異な一着を生んだ。ライダースのシルエットに、カウボーイのドーナツボタン。この組み合わせが、不思議な魅力を放つ。既視感を覚えるシルエット。だが、ボタンがその予想を裏切る。過渡期だけに見られる、特別な表情。ヴィンテージ市場でも、極めて稀少な存在だ。THE ARCHIVESシリーズは、そんな幻の一着を忠実に復刻した。歴史の一瞬を、現代に蘇らせた名品である。
名品の魅力を紐解く
魅力①:ドーナツボタンが語る、時代の狭間
ボタンを見てほしい。「Lee COWBOY」の刻印が入った、ドーナツ型。これは1946年以前、カウボーイシリーズで使われていたボタンだ。馬の鞍を傷つけないよう、金属ではなくプラスチック製。中央に穴が開いた、ドーナツ型。この刻印を見るだけで、過去へと引き戻される。だが、このジャケットはライダース。1946年からは、「Lee RIDERS」の刻印ボタンに変わる。つまり、1945年モデルは新旧が交錯する瞬間の産物。ライダースの形に、カウボーイのボタン。前身頃、カフス、ポケット、すべてにドーナツボタンが配置される。通常のライダースを見慣れた目には、この違和感が新鮮に映る。ボタンひとつで、ここまで表情が変わる。それを証明するのが、この1945年モデルだ。
魅力②:赤タグが証明する、戦後の息吹
内側のタグを見てみよう。黒地に赤い枠。中央に黄色で「Lee」、上に赤字で「UNION MADE」、下に「SANFORIZED」。通称「赤タグ」と呼ばれる、シンプルな織りネームだ。レジスターマークが採用される以前のデザイン。1940年代の特徴が、ここに凝縮されている。UNION MADEは、労働組合員が製造していることの証。SANFORIZEDは、防縮加工を施している証明。この時代、こうした表記が重要だった。品質への信頼。労働者への敬意。それらを、タグが語る。1949年以降、デザイン特許を取得すると、タグには「DESIGN PATENTED」の表記が加わる。だが1945年モデルは、まだその前。シンプルで、潔い。余計な情報はない。必要なことだけを伝える。この簡潔さが、かえって時代を感じさせる。
魅力③:ライダースのシルエット、カウボーイの魂
シルエットを見れば、これは紛れもなくライダースだ。フロントヨーク。斜めに配置された胸ポケット。手を差し入れやすいよう、ヨークに合わせて角度がつけられている。2本ラインのダーツ。身体のラインに沿う、スマートな設計。これらは、1946年以降のライダースの特徴そのもの。カウボーイ時代のプリーツやシンチバックは廃され、より洗練された形へと進化している。だが、ボタンはカウボーイ。この矛盾が、不思議な調和を生む。ライダースの洗練されたフォルムに、カウボーイの素朴な温もり。新しさと古さ。都会的な雰囲気と、西部の荒々しさ。相反する要素が、一着のジャケットの中で共存している。これが、1945年モデルの最大の魅力だ。
魅力④:左綾デニムが刻む、Leeらしい縦落ち
Leeの真骨頂は、左綾デニムにある。多くのデニムは右綾。だがLeeは、左綾を採用した。この違いが、色落ちの表情を決定づける。防縮加工(SANFORIZED)を施した左綾デニム。使い込むことで、美しい縦落ちが現れる。均一に色が抜けるのではなく、縦に筋が入るように褪色していく。これが、Leeファンを虜にする理由だ。同じ101-Jでも、年代によってデニムの風合いが異なる。1945年モデルは、戦前・戦中の右綾から、左綾へと移行した時期。新しい生地での製造が始まった、記念すべきタイミングだ。着込むほどに、自分だけの縦落ちが育つ。5年後、10年後。ジャケットは、あなたの歴史を刻んでいく。その過程が、Leeの醍醐味なのだ。
経年変化という楽しみ
デニムジャケットの真価は、経年変化にある。新品の濃紺も美しいが、育てた一着にはかなわない。Leeの左綾デニムは、使い込むほどに味わいが増す。縦落ちの筋が、徐々に鮮明になっていく。肘、肩、背中。よく動く部分から、色が抜けていく。ヒゲ、ハチノス、ジーンズと同じように、アタリが出る。ドーナツボタンも、経年変化する。プラスチック製だが、使い込むことで独特の風合いが生まれる。表面の艶が増し、深みが出る。赤タグも、洗濯を重ねるごとに柔らかくなる。色あせ、ほつれ、それらすべてが、味になる。10年、20年と着続けた101-J。それは、ヴィンテージそのものだ。1945年モデルは、オリジナルが極めて稀少。だからこそ、この復刻版を自分の手で育てる価値がある。未来のヴィンテージを、今、手に入れることができる。

1945年という、たった一年間だけ存在したジャケット。それを現代に蘇らせたこの復刻版に、私は深く感動しました。カウボーイからライダースへ。新しい時代の幕開けを告げる、記念すべき一着です。ドーナツボタンを見るたび、戦後の混乱期を生きた人々の姿が浮かびます。物資が足りなくても、工夫して良いものを作ろうとした職人魂。そのDNAが、このジャケットには宿っています。着るたびに、歴史を纏っている実感があります。ぜひ、あなたもこの特別な一着を手に取ってください。そして、あなただけの物語を刻んでいってください。
名品が教えてくれること
101-J 1945 MODELは、私たちに大切なことを教えてくれる。それは「制約が創造を生む」ということ。物資不足という制約。カウボーイからライダースへの移行期という制約。これらが重なり、唯一無二のジャケットが誕生した。通常なら世に出なかったであろう、中途半端な仕様。だが、それが逆に魅力となった。過渡期にしか存在しない、特別な美しさ。混沌の中から生まれた、一瞬の奇跡。これが、1945年モデルの本質だ。そして、Leeという企業の柔軟性も感じられる。完璧を待たずに、今できることをする。在庫の部材を活用し、新しいデザインで製品化する。このスピード感が、戦後の復興期を支えた。THE ARCHIVESシリーズは、こうした歴史を丁寧に掘り起こす。ただの復刻ではない。当時の資料を徹底的に研究し、忠実に再現する。オリジナルへの敬意が、随所に感じられる。さあ、この特別な101-Jを手に入れよう。ドーナツボタンに触れ、赤タグを確認し、左綾デニムの手触りを感じよう。そして10年後、色褪せた一着を見て、この記事を思い出してほしい。あなたが育てたジャケットこそが、真のヴィンテージなのだから。





