【完全版】フライトジャケット種類 解説

極寒の空で生まれた、アメカジの至宝たち


はじめに:なぜフライトジャケットは愛され続けるのか

フライトジャケット。それは、アメリカンカジュアルを語る上で決して外せないカテゴリーだ。MA-1、A-2、G-1、B-3これらの型番を聞いて胸が高鳴るなら、あなたは立派なアメカジファンである。

初めてMA-1を手にしたのは、高校生の頃。当時は単に「カッコいいから」という理由で着ていた。しかし、その後フライトジャケットの歴史を知るにつれ、このジャケットに込められた機能性、そして空を駆けた男たちのロマンに魅了されていった。

フライトジャケットの魅力とは何か。それは、極限環境で命を守るために生まれた「本物の機能」が、時代を超えてファッションとして愛され続けているという事実にある。防寒、防風、機動性。すべてのディテールが、明確な目的を持って設計されている。

今回は、フライトジャケットの歴史と主要モデルを徹底解説する。型番の意味、誕生の背景、そして各モデルの特徴。これを読めば、あなたもフライトジャケット博士になれるはずだ。


フライトジャケットの歴史 ── 空との戦いが生んだ進化

第一次世界大戦:防寒着としての誕生(1917年〜)

フライトジャケットの歴史は、飛行機の進化とともにある。1903年、ライト兄弟が初フライトに成功。しかし1914年の第一次世界大戦までは、飛行機は一部の金持ちの娯楽に過ぎなかった。

パイロットたちは何を着ていたのか?自動車やモーターサイクル用のウェア、極地探検隊のものを流用していた。機能特化した「フライトジャケット」は、まだ存在しなかったのだ。

1914年、第一次世界大戦が勃発。飛行機は兵器として大量投入され、飛行速度と高度が上がった。寒いヨーロッパの上空で、パイロットたちは凍えた。寒さのあまり失神する者も少なくなかった。

1917年、アメリカ陸軍に航空衣料委員会が設立される。本格的なフライトジャケットの研究・開発が始まった。最初の要件は「防寒」。ここから10年近く、もっぱら冬期用ジャケットの開発に重点が置かれた。この間に登場するのが、B-1、B-2といった初期モデルだ。

1930年代:名作の誕生(A-2、B-3の時代)

1930年代、今では定番といえるA-2、B-3が登場する。1934年、極寒地用にシープスキン(羊革)を使ったB-3が採用。全身をボアで覆った、究極の防寒ジャケットだ。

一方、夏期用の開発も進み、1927年にA-1、1931年にA-2が採用される。A-2は現在でも最も人気の高いフライトジャケットの一つだ。

この時代のフライトジャケット発達に大きく貢献したのが、ジッパーの実用化である。1891年に考案されたジッパーが、1923年のB・F・グッドリッチ社による15万個の大量発注をきっかけに実用化。フライトジャケットの防風性は飛躍的に向上した。

第二次世界大戦:布製への転換(1940年代)

1939年、第二次世界大戦が勃発。1941年、アメリカ参戦。陸軍航空隊の規模が一気に拡大し、フライトジャケットの需要も急増した。

しかし、革不足とコスト増が深刻化。供給が追いつかなくなる懸念から、1942年、新素材による開発が始まった。採用されたのは、強靭なコットン・ギャバジン。1943年、B-10が採用され、1944年にはB-15が登場する。

この布製ジャケットの登場が、後のMA-1へとつながっていく。

ジェット機時代:ナイロンへの移行(1950年代〜)

1947年、陸軍航空隊が独立し、アメリカ空軍が誕生。飛行機はジェット機時代を迎える。

ジェット機は飛行高度が高い。フライトジャケットに付着した水分が氷結し、活動の妨げになることが判明した。そこで、革製から軽くて丈夫なナイロン製へ移行する。

1945年、B-15Bがナイロン製となり、1950年代初頭、あの傑作MA-1が誕生した。MA-1は30年間にわたって使用され、最も多くのパイロットに愛されたモデルとなる。

夏期用のL-2も進化を続け、1978年のCWU-36/Pまで活躍した。

現代:アラミド繊維の登場(1970年代〜)

1970年代、耐熱アラミド繊維(ノーメックス)の開発に成功。約400度の高温に耐えられる画期的な素材だ。

1973年、アメリカ海軍がCWU-45/Pを採用。1976年には空軍も採用し、現在に至る。夏期用としては1978年にCWU-36/Pが採用された。

こうして、フライトジャケットは100年以上にわたって進化を続けてきた。その系譜は、今もなお続いている。


主要モデル徹底解説 ── 型番に秘められた物語

【革製フライトジャケット】本物の重厚感を纏う

A-1(1927年採用)

●最初期の夏期用フライトジャケット ●袖口・ウエスト周りにニット配置 ●多くのフライトジャケットの原型

A-1は、ウィンドブレーカー形式の仕様設計がなされた、フライトジャケットの原点だ。飛行兵たちは自らのA-1に、飛行中隊章や背中にアートワークを描き込んだ。このカスタムペイント文化も、A-1から始まったのである。

A-1は現在入手困難だが、その後のすべてのフライトジャケットの祖先。アメカジの歴史を語る上で欠かせない一着だ。


A-2(1931年採用)

●A-1の後継モデル ●袖と裾がリブニット仕様 ●防風性を高めるウィンド・フラップ付き ●ハンドウォーマーなし(軍人の仕種として不適当とされた)

A-2は、現在でも最も人気の高いフライトジャケットだ。ボタン式のフラップ付きポケット、防風フラップなど、機能性が高い。映画でも多くの俳優が着用し、フライトジャケットの代名詞となった。

筆者が最も欲しいフライトジャケット。革の経年変化を楽しめる本格派で、一生モノとして手に入れたい一着。価格は10万円〜30万円と高額だが、その価値は十分にある。


G-1(1947年採用)

●ヤギ皮を使用 ●襟にムートン・ボア付き ●アクションプリーツで機動性向上 ●海軍仕様のフライトジャケット

G-1は、映画『トップ・ガン』でマーベリック(トム・クルーズ)が着用したことで一躍有名になった。海軍仕様らしい、スマートなシルエットが特徴だ。襟のムートン・ボアが、首周りの保温と防風を担う。

『トップ・ガン』を観て、G-1に憧れた人は多いはず(笑)。筆者もその一人。A-2よりもドレッシーな印象で、タウンユースしやすい一着だ。


B-3(1934年採用)★究極の防寒ジャケット

●シープスキンの内側全体にボア ●極寒地域・高高度爆撃機用 ●2本のチン・ストラップで保温・防風 ●保温性・耐寒性を最優先

B-3は、極寒地用の究極の防寒ジャケット。全身をボアで覆った、圧倒的な保温力を誇る。大きな襟を締めることで、首周りからの冷気侵入を完全に防ぐ。

B-3は重量級で、真冬の北海道やスキー場で真価を発揮する。都市部では暑すぎるかもしれない(汗)。でも、このワイルドな見た目は一度は袖を通してみたい。


AN-J-4(1943年採用)

●B-3の改良モデル ●わずか2年間の支給 ●シープシアリング・フライトジャケットの最終モデル

AN-J-4は、B-3の改良点を反映して完成された。しかし、飛行機の暖房設備改善と革製品の継続使用困難により、2年間で役目を終えた。希少価値の高いモデルだ。


【布製フライトジャケット】革不足が生んだ転換点

B-10(1943年採用)

●初の布製冬期用フライトジャケット ●コットン・ギャバジン+ウール/パイル ●袖・裾にニット、襟元にボア ●革不足への対応として開発

B-10は、第二次世界大戦中の革不足から生まれた、布製フライトジャケットの第一号。コットン・ギャバジンという強靭な素材を採用し、保温性を確保した。

B-10は、フライトジャケット史における重要な転換点。ここから布製→ナイロン製へと進化していく。革製ほどの重厚感はないが、軽くて動きやすい実用性が魅力。


B-15(1944年採用)

●B-10の改良モデル ●スラッシュポケット採用 ●センターからずらしたフロントジッパー ●MA-1へと続く系譜

B-15は、B-10を改良したモデル。特徴的なのは、首への干渉を軽減するため、センターから少しずらして付けられたフロントジッパー。この斬新なデザインが、後のMA-1にも受け継がれた。

B-15はMA-1の直接の祖先。ミリタリーファン必見のモデルだ。ヴィンテージ市場でも人気が高く、状態の良いものは高値で取引されている。


【ナイロン製フライトジャケット】ジェット機時代の革命

MA-1(1955年採用)

●ナイロン製フライトジャケットの傑作 ●30年間使用された超ロングセラー ●表地:セージグリーン、裏地:オレンジ(レスキューカラー) ●ジェット機時代に対応した軽量性

MA-1は、最も多くのパイロットに愛されたフライトジャケットだ。ナイロン製で軽量、かつ防寒性・防風性に優れる。地上でのカモフラージュのため表地は緑、裏地は遭難時の発見を容易にするオレンジ色。

採用後も幾度となく改良が行われ、細部のディテールが進化した。セージグリーン(深緑)とオレンジのコントラストは、今でも多くのレプリカで再現されている。

春と秋、ちょっと肌寒い時に羽織るには最高の一着。軽くて動きやすく、それでいて暖かい。価格も2万円〜3万円と手頃で、初めてのフライトジャケットとして最適だ。派生型として、フード付きのN-2、コート丈のN-3が存在する。どれも極寒地用として活躍した。


L-2(1945年採用)/ L-2A(1947年)/ L-2B(1948年)

●初の夏期用布製フライトジャケット ●L-2:オリーブドラブ ●L-2A:エアフォース・ブルー(空軍独立を象徴) ●L-2B:シルバー・グレー(太陽光吸収対策)

L-2は、コックピットでの機動性を重視した短い着丈が特徴。陸軍航空隊時代のL-2はオリーブドラブだったが、1947年の空軍独立でエアフォース・ブルーに変更(L-2A)。その後、高高度での太陽光吸収を解決するため、シルバー・グレーに変更された(L-2B)。

L-2Bは非常に美しいシルバー・グレーで、現代のファッションにも合わせやすい。MA-1よりも軽量で、春先のライトアウターとして最適。次の購入候補だ。


N-2(1945年採用)/ N-2A(1947年)/ N-2B(1948年)

●MA-1のフード付きバージョン ●狭いコックピット用に短い着丈 ●コヨーテトリム(毛皮)のフード ●保温性・機動性に優れる

N-2は、MA-1にフードを付けたような存在。コックピット内での操縦用として使用された。コヨーテトリムの豪華なフードが、極寒地でも頭部を保護する。

N-2Bのコヨーテファーは、本当にカッコいい。ただ、日本の都市部で着るには少々オーバースペックかも(笑)。真冬インナーはTシャツ1枚でも行けるほどあったかいです。


N-3(1945年採用)/ N-3A(1947年)/ N-3B(1948年)

●MA-1のコート丈バージョン ●地上作業員用として愛用 ●N-2よりも着丈が長く防寒性高い ●グランドクルーの定番

N-3は、着丈が長いコートタイプ。狭い操縦席での着用には向かず、地上整備員たちの屋外作業時に愛用された。N-2と同様、コヨーテトリムのフードが特徴だ。

N-3Bは真冬の最終兵器。着丈が長い分、腰回りまでしっかり保温してくれる。真冬のバイク通勤や、雪国での外作業には最適だろう。


【特殊モデル】個性派フライトジャケット

D-1(1939年採用)

●グランド・クルー(地上整備員)用 ●B-3よりも軽快で機動性高い ●従軍カメラマンに好評 ●小振りな襟が特徴

D-1は、厳密にはフライトジャケットではなく、地上整備員用。しかし、その機動性の高さから、フライトする者も多かった。特に従軍カメラマンには小振りな襟が好評だったという。


N-1(1945年採用)

●海軍の艦上防寒着 ●襟と裏地にアルパカ・モヘア ●デッキ(甲板)で着るため「デッキジャケット」 ●防風性に優れる綿製

N-1は、第二次世界大戦末期から海軍の艦上防寒着として使用された。フライトジャケットではないが、その優れたデザインから、現在でも多くのレプリカが作られている人気モデルだ。

N-1は、フライトジャケットとは異なる無骨な魅力がある。ワークウェア的な雰囲気で、デニムやチノパンとの相性が抜群。アメカジファンなら一着は持っておきたい。


G-8(1950年ごろ)

●ジャケット・ウィンター・フライング・スーツの略 ●極端に短い裾 ●リブ仕様の襟と裾 ●独特の形態

J-WFSは、非常に独特な形態を持つフライトジャケット。極端に短い裾と大型のポケットが特徴で、日本でもアメリカでも「WEPジャケット」または「G-8」と呼ばれる。

主要モデル一覧表

革製フライトジャケット

モデル採用年
A-11927年
A-21931年
G-11947年
B-31934年
AN-J-41943年
D-11939年

布製フライトジャケット

モデル採用年
B-101943年
B-151944年

ナイロン製フライトジャケット

モデル採用年
MA-11955年
L-21945年
L-2A1947年
L-2B1948年
N-21945年
N-2A1947年
N-2B1948年
N-31945年
N-3A1947年
N-3B1948年
N-11945年

まとめ

フライトジャケットの歴史は、空との戦いの歴史である。極寒、酸素不足、高速飛行、ジェット機の高温、パイロットたちは、常に過酷な環境と向き合ってきた。

その戦いが生んだのが、このフライトジャケットという機能美の結晶だ。A-2の防風フラップ、B-3の全身ボア、MA-1のオレンジ色の裏地。すべてのディテールに、明確な理由がある。

アメリカンカジュアルとは何か。それは、本物の機能から生まれたデザインが、時代を超えてファッションとして愛され続けることだ。フライトジャケットは、まさにその象徴である。

このフライトジャケットの系譜を知るたびに思う。「これは単なる服ではない」と。空を駆けた男たちの命を守った、本物の防寒着。その重みを知ることが、アメカジを深く楽しむ第一歩なのだ。

型番の意味を知り、誕生の背景を理解し、そして実際に袖を通してみる。フライトジャケットの世界は、知れば知るほど奥深い。あなたも、この深淵に足を踏み入れてみてはどうだろうか。

さあ、あなたの一着を見つけよう。A-2の重厚な革か、MA-1の軽快なナイロンか、それともB-3の圧倒的な防寒力か。空を駆けた男たちのロマンを、その身に纏ってみよう。

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