【Pendleton ペンドルトン】ブランド徹底解説

オレゴンの山々で育った羊。その毛から紡がれたウールで織られたブランケット。鮮やかな幾何学模様。これがペンドルトンだ。1863年の創業以来、このブランドはアメリカ西部の文化と共に歩んできた。

ペンドルトンと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。ネイティブアメリカンのチーフが纏うブランケット、カウボーイが着るウールシャツ、あるいはキャンプで使う毛布。これらはすべて、アメリカ西部の風景の一部だった。

ヴィンテージショップで古いペンドルトンのシャツを手に取ると、その重みと温もりに驚く。これが本物のウールだ。160年以上、ペンドルトンが守り続けてきたものづくりの哲学を、今回は辿ってみたい。

1863年、オレゴン - 西部開拓が育んだウール産業

1863年、オレゴン州セーラム。トーマス・ケイという男が、小さな毛織物工場を立ち上げた。これがペンドルトンの起源だ。当時のオレゴンは、西部開拓の最前線だった。

オレゴントレイル。東部から西部へ、何千人もの開拓者たちがこの道を辿った。彼らが目指したのは、肥沃な土地と新しい機会。オレゴンの気候は、農業に適していた。そして羊の飼育にも。

トーマス・ケイは、イギリスからの移民だった。イギリスは毛織物産業の本場。彼はその技術を、新天地オレゴンで活かそうとした。最初は軍用の毛布を製造していた。南北戦争の時代、毛布の需要は高かった。

1889年、ケイの娘婿であるトーマス・レイター・ビショップが、新しい工場をペンドルトンという町に設立した。これが「ペンドルトン・ウーレン・ミルズ」の始まりだ。ペンドルトンは、オレゴン州東部の小さな町。周辺には羊の牧場が広がっていた。

ビショップが注目したのは、ネイティブアメリカンの市場だった。オレゴン、ワシントン、アイダホ。この地域には、多くのネイティブアメリカンの部族が暮らしていた。彼らは毛布を重要な交易品、そして儀式用の品として大切にしていた。

1890年代、ペンドルトンはネイティブアメリカン向けのブランケットを本格的に製造し始める。デザインは、部族の伝統的なパターンを尊重したものだった。鮮やかな色彩、幾何学模様。これらは単なる装飾ではなく、部族のアイデンティティを表すものだった。

面白いのは、ペンドルトンがネイティブアメリカンのコミュニティと対話を重ねたことだ。どんなデザインが求められているのか。どんな色が好まれるのか。彼らの声を聞き、製品に反映させた。この姿勢が、ペンドルトンの信頼を築いた。

1900年代初頭、ペンドルトンのブランケットは、ネイティブアメリカンだけでなく、カウボーイや開拓者たちにも広まった。西部の厳しい冬を乗り越えるために、暖かく丈夫な毛布が必要だった。ペンドルトンは、その需要に応えた。

ペンドルトンの哲学 - ウールという素材への敬意

ペンドルトンを語る上で欠かせないのが、ウールへのこだわりだ。160年以上、このブランドはウール製品を作り続けてきた。それは単なる素材選択ではなく、哲学だった。

ペンドルトンが使用するウールは、主にアメリカ西部産のもの。オレゴン、モンタナ、ワイオミング。広大な牧草地で育った羊の毛は、品質が高い。繊維が長く、強度がある。このウールを、ペンドルトンは厳選してきた。

ウールの特性は、保温性だけではない。吸湿性、撥水性、難燃性。様々な優れた特性を持つ。濡れても保温性を保つ。これは、西部の変わりやすい天候において重要だった。

ペンドルトンの製造工程は、伝統的な方法を守っている。原毛の洗浄から、紡績、染色、織り。それぞれの工程に、職人の技術が必要だ。特に染色は、ペンドルトンの鮮やかな色彩を生み出す重要な工程だった。

染料の選定にもこだわりがある。色褪せしにくく、発色の良い染料を使用。ペンドルトンの製品が何十年も色鮮やかさを保つのは、この染色技術のおかげだ。

織りの技術も重要だった。ペンドルトンのブランケットは、緻密に織られている。だから丈夫で、長持ちする。100年前のペンドルトンのブランケットが、今も現役で使われている例は珍しくない。

1920年代、ペンドルトンはウールシャツの製造を始める。ブランケットで培った技術を、衣料品に応用した。ウールのシャツは、保温性に優れ、アウトドアでの活動に最適だった。

ペンドルトンのウールシャツは、独特の風合いがある。ごわつかず、しかししっかりしている。これは、ウールの選定と織りの技術の賜物だ。着込むほどに体に馴染む。これが「一生モノ」のシャツだ。

品質管理も徹底していた。ペンドルトンの工場では、すべての製品が検査される。わずかな欠陥も見逃さない。この姿勢が、ブランドの信頼性を支えた。

名作を紐解く - ペンドルトンの定番アイテム

ペンドルトンを代表するアイテムといえば、まず「チーフジョセフブランケット」だろう。これは、ネズパース族のチーフ、ジョセフを讃えて名付けられたブランケットだ。

チーフジョセフは、19世紀後半、アメリカ政府の強制移住政策に抵抗した英雄だった。彼の名を冠したこのブランケットは、力強い幾何学模様が特徴だ。黒、赤、黄、白。鮮やかな色彩が織りなす図柄は、今も変わらず製造されている。

ペンドルトンのブランケットは、ネイティブアメリカンの儀式で使われた。結婚式、命名式、葬儀。人生の重要な場面で、ブランケットは贈られ、纏われた。それは単なる毛布ではなく、尊敬と愛情の象徴だった。

ヴィンテージ市場では、古いペンドルトンのブランケットは高値で取引される。特に1950年代以前のものは、希少だ。タグの形状や記載内容で、製造年代を判別できる。コレクターたちは、そうした細部にこだわる。

もう一つの名作が、「ボードシャツ」だ。これは1920年代に登場した、ペンドルトンのウールシャツの原型だった。

ボードシャツという名前は、木の板(board)のように平らで硬い生地から来ている。洗濯を重ねることで柔らかくなるが、最初は独特のハリがある。このシャツは、カウボーイや農場労働者、林業労働者に愛用された。

胸には二つのフラップポケット。襟はポイントカラー。シンプルなデザインだが、すべてが機能的だ。ウールの保温性は、屋外での作業に最適だった。そして丈夫さ。何年着ても、へたらない。

チェック柄も、ペンドルトンの特徴だ。バッファローチェック、タータンチェック。様々なパターンがあるが、どれも色鮮やかで美しい。このチェック柄が、アメリカのアウトドアファッションの定番となった。

1960年代以降、ペンドルトンのウールシャツは、若者のカジュアルウェアとしても人気を博した。サーファーたちが、ビーチで着た。大学生が、キャンパスで着た。西部のワークウェアが、全米のファッションアイテムになった。

現代でも、ペンドルトンのボードシャツは作り続けられている。デザインは当時とほぼ変わらない。使用するウールの品質も、妥協していない。これが、伝統を守るということだ。

アメリカ文化史の中のペンドルトン

ペンドルトンは、アメリカ西部の文化と切り離せない存在だ。ネイティブアメリカン、カウボーイ、開拓者。西部を象徴する人々が、ペンドルトンを纏ってきた。

まず語るべきは、ネイティブアメリカンとの深い結びつきだ。ペンドルトンのブランケットは、多くの部族で「トレードブランケット」として知られている。交易や儀式で使われる、特別な品だった。

ペンドルトンは、部族ごとに好まれるデザインを研究した。ナバホ族、ホピ族、ネズパース族。それぞれの伝統的なパターンや色彩を尊重し、製品に反映させた。これは単なるビジネスではなく、文化への敬意だった。

今でも、ネイティブアメリカンのコミュニティでは、ペンドルトンのブランケットは重要な意味を持つ。パウワウ(集会)で踊る人々が纏うブランケット。その多くは、ペンドルトン製だ。160年の関係は、今も続いている。

カウボーイ文化との結びつきも深い。20世紀初頭、西部の牧場では、ペンドルトンのブランケットとシャツが定番だった。馬に乗る時、キャンプをする時。ペンドルトンは、カウボーイの生活を支えた。

1960年代、ビーチボーイズに代表される西海岸のサーフカルチャーが、ペンドルトンを取り入れた。サーファーたちは、ビーチでペンドルトンのウールシャツを着た。海から上がった後、体を温めるのに最適だった。この組み合わせは意外に思えるが、カリフォルニアの肌寒いビーチでは理にかなっていた。

1980年代から1990年代、グランジムーブメントがペンドルトンを再発見した。シアトルのミュージシャンたちが、ペンドルトンのウールシャツを着た。それは西部の労働者文化への憧憬であり、反体制的なスタイルの表明でもあった。

日本でも、ペンドルトンは特別な存在だ。1970年代以降、アメカジ愛好家たちがペンドルトンを求めた。ブランケット、ウールシャツ。これらは本物のアメリカ西部文化の象徴として、大切にされた。

ペンドルトンが体現するもの

オレゴンの小さな町から始まったペンドルトン。その160年以上の歴史は、アメリカ西部の文化史そのものだった。

このブランドが作り続けてきたのは、「本物のウール製品」だ。流行に左右されず、伝統的な製法を守り、品質を追求する。その姿勢が、時代を超えて愛される理由だ。

ペンドルトンのブランケットを手に取る時、そこには重層的な物語がある。ネイティブアメリカンの儀式で使われたブランケット。カウボーイがキャンプで使った毛布。サーファーがビーチで羽織ったシャツ。時代を超えて、文化を超えて、人々に寄り添ってきた。

それは、ウールという素材への敬意から生まれた。自然の恵みを最大限に活かし、丁寧に織り上げる。この誠実なものづくりが、ペンドルトンの本質だ。

鮮やかな幾何学模様。厚手のウール。100年前のブランケットが、今も美しく、暖かい。これが、ペンドルトンが体現する価値だ。

西部の風景。山々、平原、そして人々。ペンドルトンは、そのすべてと共にあった。今、ヴィンテージのペンドルトンを纏う時、私たちはアメリカ西部の歴史を、そして職人たちの誇りを、身にまとっている。

これが、ペンドルトンというブランドが、160年以上守り続けてきたものなのだ。

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