アメリカンカジュアルの主要ジャンル

本場を知る者が語る、スタイルの起源と系譜

アメリカンファッションと一口に言っても、その中には複数のジャンルが存在する。それぞれが異なる時代背景、地域、階層から生まれ、独自の美学とディテールを持つ。表面的なスタイリングだけを真似るのではなく、その背景にある歴史とストーリーを知ることこそが、真のアメカジファンの楽しみ方だ。


1. ワーク(Work)

歴史と起源

19世紀後半から20世紀初頭、アメリカ全土、特に西部や中西部の鉱山、農場、工場で働く労働者たちのために、ワークウェアは誕生した。産業革命と西部開拓時代、過酷な労働環境に耐えうる頑丈な衣服が切実に必要とされた時代だ。鉱山労働者、鉄道作業員、農夫、工場労働者、彼らの命を守る「鎧」として、ワークウェアは進化を遂げた。

1873年、リーバイ・ストラウスとジェイコブ・デイビスがリベット補強したデニムパンツの特許を取得したことが、近代ワークウェアの幕開けとなる。この「リベット」という小さな金属パーツ一つに、労働者の切実なニーズが込められている。ポケットが破れて工具を失うことが命に関わる現場で、リベット補強は単なる装飾ではなく、生存のための機能だった。

カバーオールやオーバーオールといったワンピース型の作業着は、粉塵や汚れから身を守るために生まれた。ダブルステッチやトリプルステッチは、縫い目が裂けることを防ぐための補強。ハンマーループやツールポケットは、作業効率を上げるための機能的配置。すべてのディテールに「理由」がある。

特徴的なディテール

ワークウェアの真髄は、すべてが機能から生まれたディテールにある。ダブルステッチやトリプルステッチは負荷のかかる部分の補強であり、リベット打ちはポケット角など裂けやすい箇所を守る。デニム、ダック、ヒッコリーといった厚手の生地は耐久性を重視した選択だ。工具や小物を収納する多数のポケット、古い工業用ミシンの名残であるチェーンステッチの裾は独特の色落ちを生む。大工のためのハンマーループは、今や装飾として認識されるが、元々は純粋に道具を吊り下げるための実用品だった。

代表的なブランド(現代)

オーセンティック系としては、1889年創業で現役ワークウェアの雄であるCarhartt(カーハート)、1922年創業でワークパンツの定番Dickies(ディッキーズ)、1935年創業でゴリラマークが印象的なBen Davis(ベンデイビス)、そしてワークシャツの名門Red Kap(レッドキャップ)が挙げられる。

ヴィンテージレプリカ系では、日本が誇る復刻の頂点WAREHOUSE(ウエアハウス)、ディテールへのこだわりが異常なレベルに達しているBUZZ RICKSON'S(バズリクソンズ)、40年代のディテールを忠実に再現するTCB Jeans、そしてマニアックな仕様を追求するSTEVENSON OVERALL Co.が、ワークウェアの歴史を現代に蘇らせている。

【定番】まずはここから揃えよう!

まず手に入れてほしいのは、
ヘインズのTシャツ、定番のワークシャツ、リーバイス501型デニムです。
ボトムスなら、Red KapのPT20(特に綿100%のPC20を見つけたら即買い!)もマスト。
足元は先芯の入っていないワークブーツから揃えてもらえれば、間違いのないスタイルが完成するはずです。


2. ミリタリー(Military)

歴史と起源

第一次世界大戦から始まり、第二次世界大戦、朝鮮戦争、そしてベトナム戦争へと続く1910年代から1970年代にかけて、アメリカ軍のために、世界各地の戦場で、ミリタリーウェアは発展を遂げた。戦場での機能性、部隊の識別性、そして兵士の士気向上を目的として、軍服は絶え間ない進化を続けてきた。

ミリタリーウェアは、人類史上最も過酷な環境・戦場で磨かれたデザインだ。第一次世界大戦のトレンチコートは、塹壕戦での雨風を凌ぐために生まれた。第二次世界大戦のA-2フライトジャケットは、高高度での極寒に耐えるための防寒着。ベトナム戦争のジャングルファティーグは、熱帯雨林での機動性と速乾性を追求した結果だ。

MA-1フライトジャケットのオレンジの裏地は、墜落時に裏返して着ることで救助隊に発見されやすくするため。M-65フィールドジャケットの着脱可能なライナーは、気温変化に対応するため。すべてが「生き延びるため」の工夫だ。これほどロマンに満ちたディテールがあるだろうか。

特徴的なディテール

ミリタリーウェアのディテールは、すべてが戦場での生存率を上げるために存在する。ステンシルマークは部隊名や階級章などの識別用、エポレット(肩章)は階級章を取り付けるためのループだ。フラップ付きポケットは雨水や泥の侵入を防ぎ、リップストップ生地は引き裂きに強い格子状の織りで兵士を守る。ドローコードはウエストや裾の調整機能を提供し、OD(オリーブドラブ)カラーは迷彩としての機能色だった。そして興味深いのはボタンフライの採用だ。ジッパーは極寒で凍結してしまうため、確実に開閉できるボタンが選ばれたのだ。

代表的なブランド(現代)

オーセンティック系では、MA-1の本家であるALPHA INDUSTRIES(アルファインダストリーズ)、フライトジャケット専門のAVIREX(アヴィレックス)、米軍納入の実績を持つROTHCO(ロスコ)が第一線で活躍している。

レプリカ・インスパイア系では、軍物復刻の最高峰BUZZ RICKSON'S(バズリクソンズ)、フライトジャケットを芸術品のレベルまで昇華させたThe Real McCoy's(ザ・リアルマッコイズ)、スヌーピーとのコラボレーションでも知られるTOYS McCOY(トイズマッコイ)、手の届く価格帯でレプリカを提供するHOUSTON(ヒューストン)、そして元アヴィレックスのチームが設立したCOCKPIT USAが、ミリタリーの歴史を忠実に再現している。

【ミリタリー】全身コーデはNG?

ミリタリーウェアは全身で固めてしまうと、
正直、コスプレ感が出てしまう危険性がある要注意ジャンル。
だからこそ、ワーク系やトラッド、アイビー系のカジュアルスタイルに1〜2アイテムだけ取り入れるのが断然おすすめです。
まずはB-3、N-3Bといったフライトジャケットからトライするのもいいですね。足元はサービスシューズを一足持っておくと、着こなしの幅が広がります。


3. アイビー/プレッピー(Ivy / Preppy)

歴史と起源

1920年代から1960年代にかけて、アメリカ東部の名門大学ハーバード、イェール、プリンストンといったアイビーリーグのキャンパスで、富裕層の大学生や上流階級の若者たちによって確立されたのがアイビースタイルだ。彼らは独自のドレスコードを生み出し、それが一つの文化となった。

アイビーリーグスタイルは、アメリカの「育ちの良さ」を体現するスタイルだ。1920年代、ハーバードやイェールといった名門私立大学の学生たちは、イギリスの伝統的な紳士服をアメリカナイズし、よりカジュアルでスポーティな着こなしを生み出した。

ボタンダウンシャツは、ポロ競技中に襟が顔に当たるのを防ぐため、イギリスのポロ選手が襟先をボタンで留めていたことに着想を得て、ブルックスブラザーズが1896年に商品化したもの。オックスフォード生地の白いボタンダウンシャツ、コットンチノパン、ペニーローファー、これらがアイビーの三種の神器だ。

日本では1960年代に「アイビーブーム」が起き、VAN JACKETの石津謙介が「アメリカントラディショナル」として紹介したことで爆発的に広まった。日本におけるアメカジ文化の原点は、実はこのアイビースタイルにある。

特徴的なディテール

アイビースタイルのディテールは、機能よりも伝統とマナーから生まれた。ボタンダウンカラーは襟先をボタンで留めるもので、ブルックスブラザーズがポロ競技から着想を得て発明した。3つボタン段返りのジャケットでは、一番上のボタンは留めないのがルールだ。サックスーツは絞りのないストレートなシルエットで、リラックスした雰囲気を醸し出す。レップタイは斜めのストライプ柄で、元々はイギリスの連隊タイに由来する。ペニーローファーにはコインを入れる装飾的な切れ込みがあり、マドラスチェックは手織りのインド綿で、色落ちするのが本物の証だ。

代表的なブランド(現代)

オーセンティック系では、1818年創業でアイビーの総本山Brooks Brothers(ブルックスブラザーズ)、イェール大学御用達のJ.PRESS(ジェイプレス)、プレッピーを現代的に昇華させたRalph Lauren(ラルフローレン)、そしてボタンダウンシャツの名門GANT(ガント)が、伝統を守り続けている。
日本のアイビー継承ブランドとしては、アイビーの伝道師的存在のBEAMS(ビームス)、そして伝説的な復活を遂げたVAN(ヴァン)が、日本独自のアイビー文化を育んでいる。

【最近の気分】アイビーをちょっとひねる

最近の気分は、ブルックスブラザーズのBDシャツを少し大きめのサイズで着て、
細すぎず太すぎないストレートなチノを合わせるスタイル。
靴はペニーローファーかタッセルローファーで、少しだけアイビーから外すのが楽しいんです。アメカジの中でも、このアイビースタイルはイタリア、フレンチ、ブリティッシュなどのヨーロッパスタイルとも相性がいいのが魅力。ラコステのポロやセントジェームスのバスクシャツ、ナポリ製のブレザー、ジョンロブのロペスやウエストンのシグネチャーといったヨーロッパの名品をアイビーに取り入れると、一目置かれるコーディネートになるでしょう。


4. ウエスタン(Western)

歴史と起源

1860年代から1920年代の西部開拓時代、アメリカ西部のテキサス、アリゾナ、モンタナといった広大な土地で、カウボーイや牧場労働者のために、ウエスタンウェアは誕生した。過酷な西部の環境。灼熱の太陽、砂嵐、夜の冷え込み。騎馬での作業に適応するため、実用性を極限まで追求した結果が、このスタイルだ。

ウエスタンウェアは、アメリカンフロンティア精神そのものだ。広大な荒野を馬に乗って駆け巡るカウボーイたちが必要としたのは、頑丈で動きやすく、太陽と砂埃から身を守る衣服だった。

ウエスタンシャツのヨークは、肩の動きを妨げないための立体裁断。スナップボタンは、馬の鞍や柵に引っかかった時に簡単に外れて怪我を防ぐため。デニムジーンズの原点も、実は西部のカウボーイにある。リーバイス501は元々、ゴールドラッシュで西へ向かう人々のために作られた。

バンダナは砂埃を防ぎ、カウボーイハットは強烈な日差しと雨から頭を守り、ウエスタンブーツの尖った爪先は鐙に足を入れやすくするため。すべてが実用から生まれた美学だ。

特徴的なディテール

ウエスタンウェアのディテールは、すべてが騎馬での作業効率と安全性から生まれた。ヨーク(継ぎ肩)は肩の動きやすさと補強を両立させ、スナップボタンは事故時の安全性のために脱着しやすく設計されている。パイピングは装飾と補強を兼ねた縁取りで、フリンジは元々雨水を流すための実用的装飾だった。ポインテッドヨークは尖った肩のラインで西部らしさを演出し、スマイルポケットと呼ばれる湾曲したポケット形状は、騎乗時にも手を入れやすくするための工夫だ。

代表的なブランド(現代)

オーセンティック系では、カウボーイから絶大な支持を受けるWrangler(ラングラー)、名作101Jやライダースジャケットで知られるLee(リー)、1946年にスナップボタンシャツを発明したRockmount Ranch Wear(ロックマウント)、そしてヴィンテージウエスタンの王道H BAR C(エイチバーシー)が、本物の西部精神を受け継いでいる。

モダン・デザイナー系では、ラルフローレンのヴィンテージラインRRL(ダブルアールエル)、日本発で狂気のディテールを追求するKAPITAL(キャピタル)が伝統を現代的に解釈している。

【ウエスタン】意外と万能なウエスタンブーツの魅力

ウエスタンを着こなす上で欠かせないのが、ウエスタンブーツやカウボーイブーツです。
ただ、『奇抜な刺繍デザインや尖ったトゥ、絞られたヒールに抵抗がある』という方も多いはず。でも、 最近は、現代のファッションにも取り入れやすいデザインや木型を採用しているブランドが増えているんです。実は、ワークブーツよりもドレスシューズに近い木型で作られているため、足元がタイトに収まって意外とどんなコーディネートにも合うんですよ。抵抗がある方も、ぜひ一度試してみてほしいですね。ただ、ハマると沼なので、その点だけはご注意を。。。

まとめ:すべてのジャンルに宿るロマン

アメリカンファッションのそれぞれのジャンルは、単なる見た目のスタイルではない。そこには必ず、誰かの仕事、誰かの戦い、誰かの青春、誰かの反抗がある。

労働者は頑丈な服を必要とし、兵士は生き延びるための機能を求め、学生は仲間との連帯を表現し、若者は自由と反骨を叫んだ。それぞれの時代、それぞれの場所で、人々は服を通じて自分たちのアイデンティティを主張してきた。

現代の私たちが、ヴィンテージ・アメリカのファッションに心を奪われるのは、そこに刻まれた物語を感じるからだ。

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