【名品】「JULIUS TART OPTICALAR」── ディーンが遺した、永遠の眼差し

知性は、フレームに宿る。
この名品が生まれた背景
1948年、ニューヨーク。戦後の活気が街を満たしていた頃、ジュリアス・タート氏は一軒の小さな眼鏡店を開く。店の名は「TART OPTICAL」。当時、眼鏡といえば細いメタルフレームが主流だった。だが、タート氏は違う道を選んだ。太めのプラスチックフレーム。ハンドメイドによる丁寧な仕上げ。妥協なきモノづくり。そんな姿勢が生み出したのが、伝説のモデル「ARNEL(アーネル)」だった。1950年代、このフレームは瞬く間にニューヨーカーの顔を飾る。ルーズベルト大統領、ジェームス・ディーン、そして後年にはジョニー・デップ。時代を彩る人々が、このフレームを選んだ。しかし1970年代、時代の波には逆らえず、TART OPTICALは静かに幕を閉じる。それから約40年。2016年、創業者の甥であるリチャード・タート氏が立ち上がる。デザイナーのタミー・オガラ氏とタッグを組み、「JULIUS TART OPTICAL」として復活を遂げた。ARNELは「AR」として蘇る。
なぜ「名品」なのか
ARが名品と呼ばれる理由は、シンプルだ。70年以上の時を経ても、そのデザインは全く古びない。ボスリントン、ボストンとウェリントンを掛け合わせたシェイプ。太めのフレーム。知的でありながら、どこか反骨的。このバランスが絶妙なのだ。ヴィンテージ市場では、オリジナルのARNELが10万円を超える値で取引される。状態の良い個体なら、さらに高騰する。それほどまでに、このフレームには価値がある。JULIUS TART OPTICALのARは、そんな伝説を受け継ぐ復刻モデル。だが、単なる模倣ではない。創業者が遺した膨大な資料。設計図。当時の哲学。それらを元に、日本の鯖江で職人が一本一本手作業で仕上げる。オリジナルの精神を継承しながら、現代の技術で完成度を高めた。これが、JULIUS TART OPTICAL ARの真価だ。
名品の魅力を紐解く
魅力①:ジェームス・ディーンが選んだ、知性のシェイプ
1955年。ジェームス・ディーンは、ARNELを複数本所持していた。ポルシェ、Lee、Winston彼が選ぶものには、必ず理由があった。眼鏡も例外ではない。ボスリントン型のシェイプは、丸すぎず、角張りすぎず。知的でありながら、親しみやすい。反骨的でありながら、品がある。この絶妙なバランスが、ディーンの個性と共鳴した。そして現代。ジョニー・デップが、ARNELを自身のアイコンとして愛用する。映画『シークレット・ウィンドウ』では、私物のARNELで出演。多重人格の作家という難役を、このフレームが支えた。時代を超えて、クリエイティブな魂がこのフレームを選ぶ。偶然ではない。ARには、知性を纏う力がある。
魅力②:7枚蝶番が語る、妥協なき設計
眼鏡で唯一の可動部、それが蝶番だ。多くのフレームは3枚、あるいは5枚の蝶番を使う。だがARは違う。7枚蝶番。これは1940年代当時、TART OPTICALが採用していた先進技術だった。枚数が多ければ、歪みが出にくい。耐久性が高まる。開閉の滑らかさも増す。しかし、製造には高い技術が必要だ。手間もかかる。コストも上がる。それでもTART OPTICALは、7枚蝶番にこだわった。JULIUS TART OPTICALも、その精神を受け継ぐ。日本の鯖江。世界に誇る眼鏡産地で、熟練の職人が一つひとつ組み上げる。テンプルを開く。その滑らかさに、驚くはずだ。7枚蝶番の真価を、指先で感じてほしい。
魅力③:ダイヤ型の鋲、アイデンティティの証
フロントとテンプルを繋ぐ鋲。ARには、ダイヤ型の鋲が使われている。これがARNELの、そしてARのアイデンティティだ。多くのフレームは、丸い鋲を使う。機能的には、それで十分だ。だがARは違う。ダイヤ型。この小さなディテールに、TART OPTICALの美学が凝縮されている。機能だけではなく、美しさを追求する。実用性とデザイン性を両立させる。そんな哲学が、この鋲に宿る。さらに、ゴールドリベット仕様も存在する。鋲がゴールドカラーになったモデルだ。年に一度だけの生産。希少性が高く、入手困難。モダン内側には、Gのゴールド刻印が施される。通常モデルとは異なる、特別な存在感を放つ。
魅力④:鯖江が生む、現代の完成度
オリジナルのARNELは、セルロイド製だった。経年変化に強く、50年経った今でも強度を保つ素材。だがセルロイドは、現代では扱いが難しい。JULIUS TART OPTICALは、アセテートを選んだ。軽い。加工しやすい。透明度が高い。色の表現も美しい。そして何より、日本の鯖江で製造することで、精度を極限まで高められる。職人による手作業での仕上げ。艶出し。フィッティングの調整。一本一本が、丁寧に作られる。オリジナルへの敬意を込めながら、現代の技術で完成度を高める。これが、JULIUS TART OPTICALの姿勢だ。ヴィンテージと言われても信じてしまうほどの完成度。だが、掛け心地は現代的。この両立が、ARの魅力なのだ。
経年変化という楽しみ
アセテート製のARは、使い込むほどに表情を変える。最初は艶やかだったフレームが、徐々に落ち着いた風合いになる。鼻パッドには、微かな跡が残る。テンプルの開閉部分には、使用の痕跡が刻まれる。それは劣化ではなく、成熟だ。あなたの顔に馴染み、あなただけの一本になっていく。5年後、10年後。ARは、あなたの歴史を刻んでいる。ヴィンテージのARNELが、今なお高値で取引される理由がここにある。時間を経たフレームには、持ち主の物語が宿る。JULIUS TART OPTICALのARも、同じ道を辿るだろう。大切に使えば、いつかヴィンテージになる。そんな未来を想像する楽しみがある。

初めてARを手に取った時のことを、今でも覚えています。「これが、ディーンが掛けていた眼鏡か」と。歴史の重みと、現代の技術が融合した一本。掛けた瞬間、世界が少し変わって見えました。眼鏡は、視力を補正するだけのツールではありません。自分を表現する、大切なアイテムです。ARは、そのことを教えてくれました。知性、品格、遊び心。すべてを兼ね備えた、稀有なフレームです。ぜひ、あなたもこの眼差しを手に入れてください。
名品が教えてくれること
ARが教えてくれるのは、「本質は時代を超える」ということ。1948年に生まれたデザインが、2025年の今も輝きを失わない。流行ではなく、普遍性。装飾ではなく、機能美。こうした哲学が、ARには息づいている。7枚蝶番。ダイヤ型の鋲。ボスリントンのシェイプ。どれも、意味があって存在する。無駄を削ぎ落とし、必要なものだけを残した結果、永遠のデザインが生まれた。これこそ、アメリカンクラシックの真髄だ。そしてJULIUS TART OPTICALは、その精神を現代に継承している。日本の鯖江で、職人が一本一本丁寧に仕上げる。オリジナルへの敬意と、現代の技術。この両輪が、ARを名品たらしめている。さあ、ARを掛けてみよう。ディーンが見た世界を、デップが感じた知性を、あなたも体験してみよう。そして10年後、20年後も、この一本を掛け続けている自分を想像してみよう。それができるフレームこそ、真の名品なのだから。